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C. オフセットってどういうことなの? [カーボンオフセットの本質とは?]

 

しばらくごぶさたしていてすみませんでした,上海での CDM Asia 2008 に参加したり,いろんなことがありました.今回のプレゼンテーションはPEARやカーボンオフセットの話をしましたので,それを添付しておきましょう.

さて,日本では現在までに,200程度の「カーボンオフセット」と称するプログラムがあるようですが,そのほとんどすべてが「日本の京都議定書の目標のためにクレジットを使う」というタイプのものです.われわれ PEAR は,(下で説明するように) これを「カーボンオフセット」と呼ぶことには大きな抵抗がありますし,環境省のガイドライン設定時にも パブコメを通じて反論/警告してきました(ほとんど歯牙にかけてもらえませんでしたが).もちろん,PEARでは,そのようなサービスをカーボンオフセットと称して行ってはいません.

実際,「その国の京都議定書数値目標達成に用いる」ことをカーボンオフセットと称している海外での事例は,おそらく一件もないばかりか,それをカーボンオフセットと称するならそれはダブルカウンティングである,ということも言われています.

どうして「日本でだけ通用する」不思議な(かなり怪しい)使われ方がされるのでしょうか?いったいそれでいいのでしょうか?今回は,このカーボンオフセットの「本質」に迫る点を考えてみましょう.

みなさんが「カーボンオフセット」をされるとき,なにを期待されるでしょうか?「自分の出したCO2による大気への負荷」をオフセット=打ち消すことこそが,カーボンオフセットですよね?

そのためには,別のところでの「排出削減分」を排出権(排出削減クレジット)という形で調達してくる必要があります.ですが,買ってくるだけではダメです.それを「もはや使えなくする」ことで,オフセットとなるわけですね.排出権とは,文字通り,1トン分持っていたら,追加的に1トン分排出できる権利証のようなものです.誰かにあげてしまっては,オフセットしたことになりません.

排出権として,CDMのクレジット(CER)を使う場合,それを日本の目標達成に使うということは,どういうことを意味するのでしょうか?それは,「日本がそれだけ目標達成が楽になる=その分 日本が追加的に排出ができるようになる」ことを意味しています.その分は「大気から減っていない」のですね.日本は,京都議定書の目標を達成する(海外からの排出権調達もその手段です)とコミットしていますし,それを前提に動いていますから.他の国より目標が厳しい... なんていうのは,言い訳になりません(カナダのように目標達成する気がないなら話は別ですが).

言い方を変えると,海外から排出権を調達して目標達成をしなければならない日本に対し,あなたが1トン分提供するということは,その分,日本政府が排出権を購入せずにすむことを表しています.日本の「財政負担軽減」という面での寄与はありますが,それは大気からその分CO2が減るということではありません!

排出権は,ふつうは何かの排出量をオフセットするためのツールという言い方もできます.ただ,そのオフセットは「一回しか」使えません.日本の排出量の(京都議定書下の)オフセットに使ったなら,もはやあなたの排出量の(自主的な地球大気に対する)オフセットには使えませんし,逆に あなたの排出量のオフセットに使ったなら,他者(日本も含む)の排出量のオフセットには使えないのです.両方に使えると言う人があれば,それはあきらかにダブルカウンティングでルール違反です.

わたしは,日本の目標達成のために排出権を日本政府に無償で差し上げる... という行為自体は,すばらしいことであると思っています.ですが,それは「本来のカーボンオフセット」の概念とは異なることなのです(わたし個人としては,異なった名称を付けた方がいいと思っています).

2つのサービス.png

問題は,このように「似て非なる」サービスが2種類存在するなかで,購入者に対して,その意味の違いをちゃんと説明しない... という点にあります.カーボンオフセットサービスを受ける(お金を払う)人に対し,説明を全く行わないか,ミスリーディングな説明しか行わないのであれば,ただでさえ目に見えないサービスとして わかりにくいカーボンオフセットが,社会的に胡散臭いものとして社会からレッテルを貼られてしまうおそれすらあります.せっかくのすばらしい仕組みが それではあんまりです.

もっとも,日本政府へのCERの無償譲渡は,日本の目標達成を通じて(いわば間接的に)地球環境に貢献する... ということはその通りです.これは 国内での省エネ活動なども同様ですね.ただ,1トン分のCERを日本に差し上げたとしても,それは「地球大気から」1トン分減ったことにはなりません.目標達成が楽になることによって,将来,より厳しい数値目標にコミットできるようになる... かもしれませんが,その量は,あなたの提供した1トン分ではないのです.

カーボンオフセットは,1トン分のサービスを提供する(お金をいただく)なら,1トン分の削減を約束するものでなければなりません.漠然と地球環境に貢献している... という定性的な言い方ではダメなのです.環境によさそうなことは,なんでもカーボンオフセットという名前を付けてあげたい... というのでは ダメです.きちんと理論的に数字の面で整合性がとれたものである必要があります.

今回は,数値目標や排出権の理論的な話で,わかりにくかったかと思います.ただ,カーボンオフセットの根幹にかかわるところでしたので,あえてご説明しました.みなさんが,カーボンオフセットという言葉をきかれたとき,この点が明確に説明されているかどうかを,ぜひご確認ください.

松尾 直樹

P.S.   ところで,2つ異なった概念のサービスがあるのがおわかりいただけたとしても,どちらをご自分が望んでいるか,おわかりになるでしょうか?(両方同時に... というのはダメです)  そんなときは,国際線のフライトを想定してみてください.現在,国際線のフライトからの排出量は,どの国の排出量にもカウントされていません.言い換えると,いくら国際線に乗っても,日本の排出量は増えず,目標達成が厳しくはならないということです.もし,それでもあなたが 国際線のフライトもオフセットすることが大切だ... と思われるなら,それは あなたが 日本の目標達成よりも,地球大気からの直接削減である本来のオフセットを重視されているということなのです.

 


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