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カンクン会議の意味するところと日本の今後 [地球温暖化問題の国際交渉]

カンクン会議の報告会も無事終わり(資料が欲しい方は有料になりますがご連絡ください),それほど詳しいものではないのですが,簡単なまとめをナットソースジャパンレターに書きました.通常は,Climate Experts のコラム に載せるので,けっこう専門家向けの書き方になっていてブログ向けではないのですが,こちらにも載せておきましょう.

 

カンクン会議が終わりました.すこし日が経ちましたが,ちょっと落ち着いて,この会議が意味するところを考えてみましょう.

まず重要なことは,コペンハーゲンで危機感の出た「国連のマルチラテラルな体制で地球温暖化問題に対処していく」という機運が,しっかり回復しました.カンクンアグリーメントは,ほとんどすべての国の満足するバランスの取れた決定パッケージであったわけです.それは,このようないわば「中間的な」位置づけにおける COP において,なんとスタンディングオベーションが起きたことからもわかります.世界共通の意思を感じますね.すばらしい感動的瞬間です(写真はIISD).

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ここで,カンクンアグリーメントの基幹となるメッセージを読み込んでみましょう.

カンクンアグリーメントは,take note されるだけに終わったコペンハーゲンアコードを COP決定 の形にし,かつ運用面にもいろいろ踏み込んできたものです.

カンクンアグリーメントの「緩和策における大きなメッセージ」は,

1. まだ発展途上国は法的拘束力のある枠組みで規制されることを受け入れる段階にはない.

2. 逆に,自主的には目標を掲げる国も含め,緩和策強化をNAMAの名の下で,明確にした.

3. 今後のアプローチのキーとなる考えは,法的拘束力がなくとも,実効性と透明性をいかに確保していくか,が今後の制度デザインと実効面のポイントであり,MRV,ICA といった方法がその中心となる.

4. 京都議定書以外の先進国(米国)にも,実質上,target & timetable の形で,京都議定書と同等の「責任」を果たしてもらう(MRVも議定書並み).市場メカニズムも使える.

というものです.法的拘束力の下での規制が政治的な理由でできないなら,「ボランタリーな中ででも,実効性と透明性を高めるために,何ができるであろうか?」という面のデザインがキーポイントであり,世界はその方向に向かうことが明示されたわけです(Sovereigntyの問題を乗り越え,中国やインドも,大きく妥協しました).実効性と透明性は,MRV,ICA 等で担保しようとするわけですね.

どこまで削減するとか,どんな対策を採るという点は,ボランタリーであるわけですが,一方で,きちんと国際的なガイドラインに従ってそれ数量的に評価し,それを検証,審査プロセスにのせることで,ファシリテートしていこうという考え方です.

わたしは,この方向性はすばらしいと思います.事実上,京都議定書と2トラックで行く方向性の中で(これは事実です),ボランタリーの部分も実効性と透明性を確保するというアプローチは,現実的な選択肢の中で,ベストな解だと評価します.みなさんも,そのような「世界のメッセージ」を受け取ってください.

 

一方で,やはり気になるのは日本の今後です.「米中が参加する単一の法的拘束力のある枠組み」は,コペンハーゲンで実現性がまったくないことが明示されたと思います(だからこそEUも主張を曲げて京都トラックを先行させることにしました).それに拘泥する日本は,実はそのような議定書を狙っているのではなく,本心は「日本はボランタリーな枠組みに戻りたい」と主張していると解釈できます (さすがにそれは明言はなかったようですが,二国間クレジットなどはその準備ですよね).

ただ,法的拘束力のない中で,上記のように先進国にも target & timetable の形で,事実上,議定書とほぼ近い形で「責任」を果たす枠組みが動きつつあります.これにも背を向けるなら,UNFCCC から脱退するしかありません.日本はそこまで狙っているのでしょうか?

よく考えると,日本の産業界は,自主行動計画の下で,自主的とはいえ,目標を設定し,それに実効性と透明性を与えることを実践してきました.それは成功してきたと思います.どうして,その貴重な経験を,途上国がこれからしていこうとする枠組み形成の中で活かそうとはしないのでしょうか?「法的拘束力のある中に入っていないから対策していない」なんていう主張は,日本の産業界がこれまでしてきたことを否定するものです.

今回,京都議定書第2期の数値目標も,自主的にプレッジした数字を (京都メカニズム,シンク,キャリーオーバー効果などを考慮して) 補正する形で決めるとなりました.事実上,条約の下での target & timetable と,あまり変わらないと思います.ですが,日本が,さまざまな理由から京都議定書の法的拘束力という言葉を嫌うなら仕方がありませんが,それなら,米国と同じ条約の下で責任を果たすことになります. 

日本は,今後も第2期に自らが参加しないと主張するなら,事実上,そのデザイン交渉では発言を差し控えることになりましょう.貴重な機会損失ではないでしょうか.

日本の主張は首尾一貫していましたが,(正論かもしれませんが) 近い将来の実現可能性のほぼないことのみを主張しており,代替案の呈示がありませんでした.これでは誰も話を聞いてくれません.世界は,日本をおいて,前述のような方向性に大きく舵を切りつつあるのです.

一方で,二国間クレジットという仕組みはどうでしょう?条約の target & timetable で使えるようになるでしょうか?わたしは今の形のままではダメだと思います.世界は,前述のように,信頼性と透明性を強化する方向性です.そのために,ルールを共通化し,環境十全性の名の下で,いくつもの手続きの導入は避けられません.JIトラック1 が許されるのは,両方がきちんとした排出量のアカウンティングスキームと絶対排出量目標を持っているからです.いまの二国間クレジットの考え方では,UNFCCC の各国を納得させることはむつかしいでしょう.

二国間クレジットで,日本は何を狙っているのでしょう? (日本の) すぐれた技術移転ではないでしょうか?これは,十分に世界に訴求する目的です.(国際的に通用するためには) 単純でないアカウンティング手法が不可避な排出権化ではなく,技術移転を新しい付加価値として提案するという考え方はいかがでしょう?その付加価値をインセンティブとする仕組みに昇華させてはいかがでしょう?新たに条約の下で技術メカニズムが動いてきます.そのデザインプロセスにおいて,そのようなスキームを提案していくのです.さいわい,2020年段階で年間1,000億ドルに達する巨額な資金移転が,合意されています.その有効な使い道ではないでしょうか.

日本は,それほど厳しい目標をプレッジ (またはコミット) できないかもしれませんが,一方で,技術移転を拡大させることを自らの最大の貢献ととらえ,そのための仕組みを自ら提案し,積極的にオピニオンリーダーとして世界を引っ張るというようになってくれることを,期待します.

 

松尾 直樹



カンクン会議が終幕しました [地球温暖化問題の国際交渉]

二週間続いた カンクン会議 (COP 16/CMP 6) が終わりました.やはり朝までの徹夜の交渉でした.

結果は,UNFCCC のWeb に,決定文書のパッケージ (カンクン・アグリーメント) として出ています.

ふつうのCOP参加者は,COPが終わると疲労困憊して帰路に就くのですが,わたしはこれからが仕事なのです.最終版の decisions や各種情報を読み込んで,プロとしての分析をするわけですね.詳細な内容は,報告会でお話しいたします.日本のメディア等とはかなり異なった視点での分析となると思います.ご期待ください.

当然のことながら,このような国連の下での COP 交渉は,どの国も自国の主張と,他国の主張とのぎりぎりの妥協点を探ることになります.いろいろな思惑の中での交渉となるわけですが,その中で,いかに信頼感を醸成し,ロジカルに説明し,実績を示し,相手の主張や関心事にも譲歩していくか... が,重要となります.みなが核廃絶の重要性が分かっていてもそれがすぐにできないとと同じように,一体感・共有感をもって,一歩ずつ,進めていくしかありません.

当然のことながら,誰にとっても 100%満足する結果などはありえません.そのなかで,それなりに満足感をもてる結果が得られれば,それは成功 (のひとつの指標) と言えるかと思われます.

カンクン会議は,コペンハーゲン会議が誰にとっても不満足な結果に終わってしまったのを受けているわけですが,事前交渉などの進捗も芳しくなく,次の南ア・ダーバン会議に向けての通過点でした.その中で,どこまで「進めておくことができるか?」ということが,重要なポイントになります.ヘタをすれば(成果がほとんどなければ),対策の国際的モーメンタムが削がれる危険性すらあります(COP 6交渉が失敗に終わったときにもその危険性がありました).

もうすこし具体的言えば,

     ・将来の方向性を世界に示すことができるか?

     ・コペンハーゲンアコードの運用面を整備

 の2点が重要な気がします.

この2点に関して,カンクン会議は,それなりに成果を出したと思います.とくに 2点目に関しては,十分に及第点ではないでしょうか.なにせ,LCA の決議文書 も KP の決議文書 も,[  ] のない文書の合意に成功したのです(かぎ括弧は未定部分を意味します).

ICA (途上国の行動の国際的な審査プロセス) など,かなり政治的色彩の強いアイテムに関しても,きちんと合意できているようです.

最大の政治的課題である京都議定書の第2期の目標値などに関しては,カンクンでは決まっていません.これは当然で,ダーバンで政治決着することとなります.途上国の行動や,LCA側の法的な位置づけなどもそうです.

逆に,このようなポイントに集中するところまで整理できたと言うことは,ハイレベルの政治判断の部分に大臣の関心を集中することができるわけですね.

カンクンの成果が,きちんと「バランスの取れたアウトカム」となっていたかどうか?は,実際に交渉を担当した人たちの 次の写真がよく表していると思います(IISDからの写真です).

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スタンディング・オベーションですね.すばらしい瞬間です.きちんとバトンは,みなが満足できる形で 南ア・ダーバンに渡されたと言えるでしょう.

非常に多くの国から,カンクン会議の成果を評価する声と,エスピノ−ザ議長の努力をたたえるインターベンションがありました.できたら,日本にもその中の一国になってもらいたかったものです.

ついでに言っておくと,国際交渉はコンセンサスベースです.コンセンサスと全会一致(ユナニマス)は異なり,今回は,一カ国だけだだをこねていたボリビアの意見を,握りつぶしました.

 

二週間 お世話になったカンクンメッセは,もはや「兵どもが夢の後」です.

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それでは,日本でお会いしましょう.

松尾 直樹 @ビデオや決議文を分析中

 


カンクン会議: 最終日になりました [地球温暖化問題の国際交渉]

いよいよ最終日です.2時間前に予定されていたCOPプレジデントの informal meeting は,まだ始まっていません.裏で厳しい交渉が続いているのでしょう.ただほぼはっきり言えるのは,その中には,日本がいないか,いたとしてもその主張は (交渉している目的とは異なるので) 反映されることはないでしょう.交渉をブロックするという効果はあるかもしれませんが...

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さて,きょうはいい天気です.われわれオブザーバーは,交渉担当者ではないのですが,おそらく今日(も) 徹夜の交渉が続くのでしょう.何時に決着が付くのでしょうか?

WMOのステートメントによりますと,2001−10年の10年間は,観測史上 もっとも気温が高い連続した10年間だったそうです.各国のそれぞれの関心事はあるでしょうが,現世代の意思決定者たちには,それを乗り越えて,一歩一歩でも着実に前に進む合意のためにがんばってもらいたいものです.

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さて,きょうまさすがにもうサイドイベント巡りをするつもりはないのですが,昨日は,米国センターで,なんと防衛省の気候変動に関するサイドイベントを見てきました.

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米国防衛省では,気候変動を米国に対する安全保障のひとつの大きな視点ととらえています.脆弱な国への気候災害の支援,難民の問題,食糧供給の不安定化,潜水艦の展開の方法論など,いろいろな分野が係わってきます.もちろん彼ら自身の活動の省エネなどの話もありました.日本の自衛隊には,日本の防衛の観点から戦略的に気候の問題をとらえるという (せめて)スタディーくらいは行われているのでしょうか...

わたしが興味を持ったもののひとつは,軍でしか持っていないデータ (たとえば北極海の氷の厚さのデータ,上空大気の状況など) などを,サイエンス側に提供してもらえるか?という点です.広く提供しているかどうかは明言はなかったのですが,すくなくとも米国政府機関でもある NOAA/NASA とは,共同で問題にあたっているという話でした.

サイドイベントはそのくらいにして,交渉会場のムーンパレスに移動して,CDMのコンタクトグループを聞いてきました.AM 3時過ぎまでの交渉で,ほぼテキストは固まったのですが,ボリビアがごねていて,継続審議となりました.

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合意された部分には,たとえば方法論審議の時間を短くすることや,first-of-this-kindバリアの最終ガイダンスを求めること,ホスト国承認グリッド排出係数のこと,新技術のこと,Standardized Baselineのこと,地域偏差の是正措置のこと(バリデーションコストなどのローンスキーム設置も含みます)などが,記載されています.わたしのような専門家以外はちんぷんかんぷんでしょうから,詳細やその意味合いが知りたい人は,報告会をきいてください.

午後 9時過ぎから,COPおよびCMPプレジデントの エスピノーザ議長が informal stocktaking plenary を開きました.

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いくつかの主要イシューで,先進国と途上国の大臣をそれぞれひとりずつアサインして,コーディネーションを行ってもらったことの報告を聞く場でしたが,どこまで進んだのかはっきりはしませんでした.AWG-LCAのキーポイントは,ICAという途上国の活動のレビュープロセスというところで,これはインド提案をベースに決まりそうと言う感触を持っています.

AWG-KPは,revised text FCCC/KP/AWG/2010/CRP.4/Rev.3 が出てきました.ん?ページ数が増えている...

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議長の John Ashe は,アンティグア・バブーダというカリブの小国の人ですが,長年の気候交渉を経験しており,場合によっては変な意見を (たとえそれが途上国側であっても)切り捨てることができる人ですが,さて,そこまで進めていけるでしょうか?

こんばんは,徹夜の交渉が行われるでしょう.交渉は既に「個々のイシュー」から,「全体のバランスを考えたパッケージ」をどう組むか?というプロセスに移っています.

交渉自体はカーテンのむこうがわで,政府関係者でもかなりの高官以外は蚊帳の外です.一方で,CDMなど 実務レベルの課題も残っています(これは片が付くでしょう).われわれが知りうるのは,結果が出てきたとき=最後のAWGs, COP, CMPが行われる段階であるわけですが,結果を期待しましょう.将来に向けて,いかにモーメンタムをつけ,カンクンでの成果として一定の段階まで進めておくか?ということです.

カンクン宣言というような名前になるかわかりませんが,一連の COP決定シリーズ,CMP決定シリーズは必ず出てきます(一部はすでにLドキュメントとなっています).コアとなる部分がどうなるのでしょうか?

松尾 直樹 @今日のCOP Plenaryの最初のものがもうすぐ始まりそうです


カンクン会議: 二週目の木曜日 [地球温暖化問題の国際交渉]

交渉会議も残すところ2日間となりました.実際は最終日は徹夜の交渉となるでしょうが...交渉関係者以外はかなり帰ってしまって,寂しくなってきています.

ときどき,途上国の国内での自主的な取り組みの話を聞く機会があるのですが,印象とすれば,中国もインドも,かなりしっかりした国内対策をとってきています.エネルギー対策それ自体は彼らにとっても関心事だからです.ただ,絶対量の制約が課される事への懸念と,内政干渉への懸念が,国際的な場での法的拘束力のある目標を受け入れるのを拒むわけです.原単位目標を設定して自主的に実効性のある対策を強化してきている... という主張であるわけです.(Cap-and-Trade規制に反対し自主性を主張する)日本の産業界とほとんど同じ主張ではないでしょうか.

昨日は,バイオガスという名前に惹かれて,ブラジルのサイドイベントに行ってきました.Itaipuという三峡ダムに次ぐ世界最大の発電所(水力でなんと14GW!)のあるところなのですが,バイオガスを(エネルギーのみならず)いろいろな用途に使おうとしているのは新鮮でした.エネルギーの場合にも発電も考えられています.エタノールで成功したブラジルが,豊富な家畜やバイオ系(廃棄物)リソースを用いて,バイオガスをベースとした再生可能(エネルギー)システム構築にも手を出してくるなら,すばらしいことです.

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米国やEUも,いつも独自のパビリオンを出していますが,米国の科学分野の取り組みの特徴は,その中身もそうですが,いかにインタラクティブにビジュアルなわかりやすい形で成果をプレゼンするか... という点にもあります.地球でどのようなことが起きているか,どこまで分かっているか,どのようなインプリケーションがあるか,などを,専門家の方が iPad のように指で操作するタッチディスプレイで説明していました.

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上記の氷の上にある「しみ」のようなものは,グリーンランドの氷床の上にある「池」で,ひとつの大きさが 1kmから2km程度です.そこから溶けた水が氷床の下にクラックを通して滑り込み,氷床自体を海に滑らせる潤滑剤となっています.IPCCの最新の第4次評価報告書には,この効果は(定量化できていなかったので)取り入れられていませんが,海面上昇のみならず,熱塩循環への影響など,かなり怖いこと(のきっかけ)になるかもしれません.

経団連のサイドイベントでは,日本でおなじみののいつもの主張がなされていました.

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残念ながらフロアとのやりとりの時間がほとんど取れなかったのですが,いま懸命に行われている交渉自体を否定するような主張ですので,かなり違和感を覚える人が多かったと思います.

わたしの興味は(PEARの目的でもあります),途上国貧困地域で,エネルギーへのアクセスがままならない人たちへのソリューションをどうしていくか?という点でもあるのですが,それに関して,2つのサイドイベントがありました.

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UN Foundationの Energy for a Sustainable Future のイベントは,面白かったのですが(UN Secretary-General’s Advisory Group on Energy and Climate Change (AGECC)からの報告です),せっかく作った報告書のエッセンスを,もうちょっとちゃんとプレゼンテーションしてもらいたかったものです.

次のサイドイベントでは,ADBの Energy for All のイニシアティブの話があり,途上国開発のコンテキストで,エネルギーへのアクセスの重要性が強調されていました.薪や石炭のブラックカーボンによる健康被害など,看過できない問題の解決という意味でも非常に重要なものなのですね.

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そのソリューションの一つが,SNV(オランダのJICAに相当する機関です)の家庭用バイオガスプログラムのサポートです.PEARがやっていることと重なってきます.

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なぜかJICAは,このような家庭レベルの分散型エネルギーアクセスに関しては,あまり興味を示してきませんでした(インフラ系はいろいろあるのですか).PEARとしても,バングラでの活動を通じて,JICAにこちらの方面にも目を向けてもらいたく思っています.

PEARでは,いまバングラデシュで新しいビジネスモデルを設計中ですので(BOPビジネスですね),うまくいけば,このモデルをいろんな国に拡げられれば... と思っています.

松尾 直樹 @きょうは曇っています



カンクン会議: 二週目の水曜日 [地球温暖化問題の国際交渉]

昨日からすこし咳が出ていたのですが,今朝起きたら喉をやられていました.だいぶましになってきましたが... ここ数年風邪一つひいていないのですが,ちょっとカンクンでは疲れているのかもしれません(自覚症状はないのですが).

さて,交渉も新しい議長テキスト FCCC/AWGLCA/2010/CRP.3 と FCCC/KP/AWG/2010/CRP.4/Rev.2 が出てきて,本格的な交渉モードに入ってきたようです.

インドから(BASIC各国間で共有されているようです),AWG-LCA の途上国緩和パートに関して,新しい提案が出てくるなど,確かに動いてきています.この提案は,途上国の行動 (NAMA; Nationally Appropriate Mitigation Action)とからんで出てくる National Communications や ICA (International Consultation and Analysis) に関するものです.

ここでもういちど,カンクンで得られるものを国際交渉の点から整理してみましょう.

まず,たとえ新しい国際協定が採択されなくとも,COP Decisions, CMP Decisions は採択されます.このなかに,いかに実効性があり,将来の方向性を付ける決定をたくさん含めることができるか?という点が重要な点です.法的拘束力はありませんが,実質上,それに基づいて国際社会が動くわけですから.

何度も発言されていることですが,それは「バランスの取れた」ものである必要性があります.言い換えると,どの国もそれなりに納得できる「妥協」ポイントを探すと言うことでもあります.ひとつの要素だけが先走ることはなく,あくまで「パッケージ・ディール」であるわけですね.

2つのAWGでは,事務方(各国の官僚のことです)が,できるだけ詰められる点を詰めて(トレードオフの関係にある主要エレメントを整理するわけですね),残ったきわめて政治的色彩の強い点を,大臣級が「バランスを考えながら」パッケージとして政治合意する,というプロセスが一般的です.その意味では all or nothing (もしくは合意できる事項を確認して交渉継続)とも言えるでしょう.

当然ながら,交渉を行うものは,国としての方針はもちろん必要ですが,交渉に当たっての裁量の幅が与えられなければ,きわめて苦しい状況に陥ります.大きな決定にあたっては,最終的には,環境大臣から総理大臣に打診して決定されると言うこともあります.首脳が直接電話会議を行って (たとえば京都会議はクリントン大統領と橋本首相が電話で決定しました) ゴーサインを出す必要が出てくるかもしれません.

なお,合意は「コンセンサス」ベースで行われます.コンセンサスとユナニマス(全会一致)とは,すこしニュアンスが異なります.

さて,サイドイベントですが,昨日お伝えした日本関連の IETA (International Emissions Trading Association) 主催のサイドイベント “Japan: Shaky politics, nervous business, and a big, big reduction target” に行ったのですが(経団連というのはまちがいでした),10分遅れだったにもかかわらず,壇上には M物産の I氏だけでした.他の人は帰ったか 来られない... ということで,急遽 わたしがピンチヒッターをさせられました.日本の「考え方」は,やはり外国の人にはかなり「不可解」ですので,そのあたりを説明したつもりですが,はたして30人ほどいた人に伝わったかどうか...

そうそう関係ないのですが,IEATサイドイベントの会場のWestin Hotelの入り口に,ソーラーバイク(?)が展示してありました.

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EU の行った EU ETSに関するサイドイベントは,はじめの部分は出られなかったのですが,eurelectric (欧州の電事連みたいなものです)が,電力会社の考え方を説明していました.自由化や大陸レベルでの系統連系の進んでいる欧州と,9社体制で自由化が限定的な日本のケースと言うこともありますが,かなり考え方が違います.下のスライドは,温暖化対応戦略とは,電力会社のすべての部門が関与する問題で,もはや企業戦略とほとんどかぶっている... ということを示したものです.

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日本の気象研究所に相当する 英国の Hadley Centre のサイドイベントでは,IPCCの第4次評価報告書以降の研究がどう進んできているか?の説明がありました.Hadley Centreは,気候モデルシミュレーションで有名ですが,モデルはあくまで「各プロセスの理解」が進まなければ改良が進みません.氷床の減少が思ったより進んでいることなどが取り込まれてきているようです.

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ただ,わたしが個人的に非常に興味のあるある abrupt climate change すなわち 気候系が突然大きく変化してしまうような事象に関しては,ほとんど進展がないようでした(質問したのですが,その人が知らなかっただけかもしれません).

PEARの得意とするプロジェクトですが,民間のデベロバと,民間の投資家を結びつけるチャンネルを,CTI (Climate Technology Initiative) が,PFAN (Private Financing Advisory Network) という形で行っています.CTIは,日本がイニシアティブをとってつくったものですし,ICETT がその事務局をしていることもあり,わたしの PEAR のプロジェクトも,ぜひ,これに載せていきたいと思っています.

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そういえば,初日の話でみなに衝撃を与えて以来,日本の動きは目立ちません.交渉には妥協などのできるフレキシビリティーが与えられることが必要なのですが,あの発言が日本交渉代表団の柔軟性を奪ってしまったという見方もできるかもしれません.どこか(国内?)の方面への牽制球という政治的意味合いもあったでしょうが...      後逸...

松尾 直樹 @外はおだやかです


カンクン会議: 二週目の火曜日 [地球温暖化問題の国際交渉]

いま火曜日の朝です.今日も天候は穏やかな一日のようです.

3時から,環境大臣級が次々にステートメントを行います.きょうは EUがハイライトでしょうか.日本は木曜のお昼頃の予定だったと思います.さて,何か新しいことが発表されるでしょうか?

議長国メキシコの交渉は,皆の声をちゃんと聞くという点では評判がいいようですが,今後はどうなるのでしょうか.閣僚レベルになってくると,通常は次第に少人数で小さな部屋で交渉が行われます.これは「通常の」ことです.今回も(コペンハーゲンの亡霊を払って)そのようにしてもらいたいものです.

昨日は,朝に行こうとしたLDCのCDMのファイナンスに関するサイドイベントがキャンセルされてしまいました.

午後は,米国エネルギー省長官のチュー博士(なんとノーベル物理学賞受賞者です.米国はすごいですね)が話をすると言うことで,30分前にブースに行きました.ところが長蛇の列で,結局,別室でモニターで拝見するだけとなりました.

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内容は,エネルギーや気候変動のことを,さすが学者という感じで話をされていました.あれでは,まわりのお役人ではついて行けないかもしれません(笑).かなり専門性の高い話でした.元物理学者のわたしは愉しかったですが...

IIASAは,温暖化の世界では,トップダウン型エネルギー系のモデルで有名ですが,今回はボトムアップ的な分析をベースにした研究プログラムを話していました.途上国のエネルギーアクセスなどのコスト/便益分析をかなりしっかりしている印象でした.日本ではコベネがローカルな環境面を意味すると狭い解釈がありますが,きちんと広く捉えているようです.来年の春に報告書が出るようなので,期待しましょう.

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また,今年も中国の研究者による「カーボンバジェット」プロポーザルの発表がありました.過去の排出量総量をベースとした世界のキャップアンドトレードシステムです.今回は必ずしも中国が便益を受けるわけではないと言っていました.

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この提案が国際交渉の場で採り上げられるとは思えませんが,もし中国政府が裏から強く戦略的にバックアップしていたら... そのような戦略性はないと感じていますが,さてどうでしょう?

インドのCDMのサイドイベントでは,世銀がPoAの分析をしていました.ちょっと気になったのは,バリデーション時点で問題がなかったサンプリング手法が,実際にプロジェクトが動き出したら変なことになる可能性があまり評価されていませんでした.「プログラム」をちゃんとオーガナイズするところのコストは,強調されていました.

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サイドイベントの会場のカンクンメッセでは,いろんな団体のブースがあり,いろんな刊行物などがたくさん並べられています.おみやげをくれる場合もあり,わたしはPEARのプロジェクトを実施しているバングラデシュの国のブースで話をしたら,帽子をもらいました.

その他,いろんな「もの」を持ち込んでいるケースもあり,下の写真は「改良かまど」です.燃料効率がかなり上がります.いろんな形態のものが,途上国貧困地域で使われています

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それでは,きょうはまず IETAでの経団連のサイドイベントに行ってこようかな...

松尾 直樹 @まだ時差が残っています...


カンクン会議: きょうから二週目です [地球温暖化問題の国際交渉]

今朝も風もなくすがすがしい感じです.海も波が穏やかですね.

きょうから,二週目に突入します.環境大臣たちも続々カンクン入りしてきているようです.写真は交渉の行われているムーンパレスの外観ですね.昨年の寒かったコペンハーゲンと比較すると夢のようです.ただこの会場も,大臣級が訪れてくると警備が厳しくなりますね...

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日本から持ってきている宿題やちょっと遊びに行ったこともあって,詳細な分析はできていませんが,ちょっといままでの交渉を振り返ってしましょう.

交渉は,SBI,SBSTAの二つの補助機関会合は,それぞれ,いくつもの結論を出して閉幕しました.個人的には,SBSTAのL.23ドキュメントに,興味があります.CDMの方法論をシンプリファイする件に関する点です(タイトルは Standardized Baselines under the CDM ですが,通常の方法論も標準化ではありますので simplification という言い方の方が意味は正しいですね).内容は,CMPが,

Requests the Executive Board to develop standardized baselines, as appropriate, in consultation with relevant designated national authorities, prioritizing methodologies that are applicable to least developed countries, small island developing states, Parties with 10 or less registered clean development mechanism project activities as of December 31 2010 and underrepresented project activity types or regions, inter alia, for energy generation in isolate systems, transport and agriculture, taking into account the workshop referred to in paragraph 8 below.

というところが主です.

CCSをCDMで認めるかどうか,という L.24ドキュメントも注目ですね.内容は,CCSがCDMで適格であることを認めた(!)上で,CMPが

Requests the Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice, at its thirty- fifth session, to elaborate modalities and procedures for the inclusion of carbon dioxide capture and storage in geological formations as project activities under the clean development mechanism, with a view to recommending a decision to the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Kyoto Protocol at its seventh session;

となっています.ただ考慮すべき点が列挙されており,そう簡単ではありません.

2つのAWGの本体に関しては,土曜日に,どちらも重要な文書が出てきました.

AWG-KP の方は,FCCC/KP/AWG/2010/CRP.4/Rev.1 で,議長からのプロポーザルという形態をとっています.

AWG-LCA の方は,FCCC/AWGLCA/2010/CRP.2 で,possible element of of the outcome としています.

ともに内容はまだ精査できていないのですが,閣僚の人たちに見せられる水準にそれなりにストリームラインされてきている(それぞれ 46ページと 33ページ)と感じました.もちろん事務方で決められない部分は,まだ多く残されています.閣僚の人たちは,その決定のためにいるのですから.

なお,国際交渉は,基本的には「妥協」です.それなりにみなが「納得できる」線がどこにあるか探るわけですが,内容もその合意プロセス自体も,そのような「納得感」のためには重要なのですね.

このカンクンでの交渉プロセスは,ある意味,欧州でのハーグ会議(COP 6)で交渉が失敗した後の状況と似ているかもしれません.ただあのときの (これで京都議定書が日の目を見なくなるかもしれないという) 切迫感はなく,次に繋げる最終決定は次回のダーバンかな... というところはあります.

ハーグ会議の後は,COP 6.5 がボンで開かれ,(EUの大きな妥協もあって) マラケシュアコードのコアエレメント(政治的判断が大きい部分)である Bonn Agreements の合意にこぎつけました.そのときに中心となったのは,COP 6 議長のプロンク氏で,(コペンハーゲンで「天から降ってきた」と称された)議長テキストをみずから作成し,それをベースに交渉をぐいぐい引っ張ったものです.

それにみんながついていった背景には,プロンク氏が,(COP 3 のエストラーダ議長と同じく) みなの意見を一生懸命汲んで,でもひとつの結論に持って行くために文字通り粉骨砕身の努力をしていたのが,みなにもよく分かっていたということもあるのでしょう.今回,メキシコは,そこまですることはなく,COP議長からの政治合意のテキストは(いまのところは)出さない... と言っているようです.

いずれにせよ,事務方でできることはそれなりに整理されてきています.COPやCMPでは,Decisions と呼ばれる一連の決定が行われ,それは (たとえ新しい法的な協定の形をとらなくても) 今後におおきな影響力を持つものとなります.

事務方の努力をベースに,大臣たちが,どのように「政治判断」を行ってくれるのか,期待しましょう.

ところで,ここカンクンのカリブの海は,まったく磯の香りがしません.ほとんどものが腐敗していない非常にきれいな海です.実は,日曜は,オットセイ,マナティー,ドルフィンとすこし戯れてきました.わたしはカイギュウという滅んでしまった動物が好きなのですが(エスキモーたちの海にいました),マナティーもその一種です(がこちらは暖かい海ですね).マナティーもそうですが,海の生態系の大きな部分を占める珊瑚礁は,温暖化の影響をかなり敏感に受けます.すこしでも遅らせるように努力したいものです.人間だけの問題ではありません.

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それでは,また.

松尾 直樹 @またエンジンをかけて...

 


カンクン会議: 5日目 [地球温暖化問題の国際交渉]

久しぶりに,今朝は風もなくすがすがしい感じです.

交渉もいろいろ動いてきて,昨日は,議定書提案に関するコンタクトグループに参加(傍聴)しました.新議定書案が昨年からAOSIS (小島嶼国)などからいくつか出ていて,それを議論するプロセスなのですが,実際は,いまのAWG-KP交渉,AWG-LCA交渉の,「法的拘束力のある議定書」という形をどうとるか?というものです.必ずしも新しい名前の議定書ができるとは限りません.強硬派のAOSISに対し,不要であると主張する中国やインドなどの対立という構図です.EUはサポート側です.日本はいつもの単一の枠組みを主張していました.

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コンタクトグループに引き続いて,クローズドなインフォーマルミーティングが開かれたはずです.なんらかの糸口が出てきたのでしょうか?

それから,バスで,Moon PalaceからCancuun Messeに向かったわけですが,このバスはジャトロファを用いた100%バイオディーゼルバスです.のり後心地は... 普通のバスといっしょですね(笑).

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サイドイベントでは,あたらしくできたCDM方法論ブックレットの説明をきいてきました.このような試みは,とくに素人には非常に役に立つものです.ただ,CDM理事会のガイドライン/ガイダンスの説明が弱く,加えて「行間を読む」ような説明があるとなおベターであると発言しておきました.少なくとも2回のCDM理事会会合毎にリバイズされるようです.

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米国政府のイベントでは,気候変動と災害に関するリスク対処体制に関するものをすこし見ました.適応の方が,緩和より「コベネフィッツ」の要素が強くなります.いずれにせよやったほうがいいわけですね.

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また,CDMと技術移転に関するイベントでは,旧友であるEric Haitesの仕事が発表されていました.5000程度のプロジェクトのPDDをサーベイした力作で,CDM事務局のWebサイトからダウンロードできます.次回は,ケーススタディーを中心に,Good Practices事例がわかる感じを中心にしてくれるといい... とコメントをしておきました.技術移転にもいろいろなケースがありますが,通常のプロジェクトは,商社や金融機関がCERバイヤーとなります.一方で,技術をもっている製造業の人が事業者となる数少ないケースでは,技術移転そのものが目的となり,それをCDMでブーストするということとなり,そのようなケースが増えてもらいたいものですね.南南協力などの成功事例も興味があります.

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また,このような技術移転のためのプラットフォームがあるといいのですが,いまあるものはどれも貧弱です.今 交渉で動いている「技術メカニズム」がどのようなものになるか,期待しましょう.

それでは,また.

松尾 直樹 @今日は暑くなりそうです

 



カンクン会議: 4日目 [地球温暖化問題の国際交渉]

きょうも曇りですが,海はきれいですね.

さて,昨日は GEF (地球環境ファシリティー)のサイドイベントに参加しました.IGESのときの仲間である Bob Dixon がリードしています.気候変動枠組条約などのフィナンシャルメカニズムで,いろんなファンドなども動かしています.今回は,mitigation のみならず adaptation にも関する技術移転がテーマでした.

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民間との連携も動いてきているようなので,うまくわたしのBOPビジネスとの接点が見つけられるといいのですが...

それから,CDMのコンタクトグループに出ました.

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これは,現在のCDMに関して,CDM理事会へ CMPがどのような指図を行うか?という点を交渉する場です(2013年以降の話ではありません).議論すべき議題のリスト自体が議論され,CDMというメカニズムの継続性問題をここで (preamble のような形で)「市場に対するシグナルとして」載せるかどうか,がいろいろ議論されました.その他の場所でもそうですが,「市場へ明確なシグナルを出すこと」の重要性が,これだけ交渉の中で認識されてきたのはうれしいことです.むかしは,途上国はほとんど市場メカニズムに反対でしたから...

もうひとつ,PoAの重要性も大きく認識されており,どのような形の方向性がつくのか,期待されます.日本政府にインプットしておこうかな...

EUによる市場のリンケージのサイドイベントは,あまり出られなかったのですが,よくみる以下の図が説明されていました.

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EUは,市場ですべての排出源をカバーし,プロジェクトレベルからETSでカバーする方向性を明確に指向しています.非常にわかりやすいのですが,現実の世界はなかなかそれについてこないのですが... おおいなるチャレンジと言えるでしょうか.

昨日もお知らせした初日の日本のインターベンションや,記者会見の様子をみた環境NGOは,Fossil of the Day のようなものだけでなく,以下のような展示もしていました.惜しむらくは,日本政府代表団の交渉している人は,カンクンメッセにはいないのです...

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それでは,また.

松尾 直樹 @日が差してきました

 


カンクン会議: 3日目 [地球温暖化問題の国際交渉]

きょうも強い風が強いですね.青い海が波立っています.海で泳ごうと思っている人にはあいにくです(わたしは水着を持って来るのを忘れてしまいました...).

さて,昨日(水曜)は,交渉では,CDM理事会や JISCからの報告がありました.それをベースに,きょうからコンタクトグループ(テーマごとの交渉)が動き出します.

驚いた点は,AOSIS(小島嶼国)の新議定書案に関するコンタクトグループが設立されました.これが,法的な位置づけが明確でなかった(言い換えると国際協定を作るとは明言されていなかった)AWG-LCAの交渉に,影響を与えるかしれません.Zammit Cutajar (むかしのUNFCCC事務局長)が議長をつとめるので,期待しましょう.

昨日は,IPCCのサイドイベントがありました.E-mail流出事件など一連の出来事の中,大きくなってきているIPCCの役割の中で,その役割に見合ったガバナンス構築を,Pachauri議長が話をしていました(そうそう 彼の頭にblack carbonがsequesterしたのは???).IPCCの役割に関しては,ここに書いたものがありますので,よろしかったらどうぞ.

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それから,2007年のノーベル平和賞を基金に,途上国の若い研究者育成プログラムが動き出しているということでした.すばらしいお金の使い方ですね.

それから,現在の AR5 (第5次評価報告書)の状況,その中の不確実性の評価などのクロスカッティングイシューの扱い方のガイダンス,政策担当者や社会へ「わかりやすく.政策に役立つ形での」科学的情報提供の重要性,現在進行形の特別報告書 ("Managing the Risks of Extreme Events and Disasters to Advance Climate Change Adaptation", "Renewable Energy Sources and Climate Change Mitigation")などの説明もありました.あまり中身に踏み込んだ(新しい知見に関する)説明がなかったのは残念ですが,クロスカッティングイシューや,「条約第2条(究極の目的)に対してIPCCが言えること」は,Pachauri氏が副議長だったTAR (第3次評価報告書)のとき,いっしょにガイダンスペーパーや統合報告書を作成したこともあり,なつかしく感じました.

中国政府のサイドイベントも,IPCCと同時にあったので,参加できなかったのは,残念でした.

その他のサイドイベントでは,スマートグリッドの話を聞きました.

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電力の相互コミュニケーションという本来の視点が上手にプレゼンテーションされましたが,そこからの拡張,たとえばガスなどの他のエネルギーや,カーボンマネージメントという視点が薄かったのがすこし残念でした.

夜,NIESの藤野さんのマネージで,日本人たちといっしょに食事に行きました.なかなか怪しい(!)メキシコ料理屋さんでした.

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そうそう,昨日お知らせした,日本代表の発言ですが,わたしは直接聞いていないのですが,話によると,その瞬間に会場が凍ったようです.案の定 昨日の Fossil of the Day にも選ばれていました...

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ECOの記事でも大きく採り上げられています(下に添付します).ECOも Fossil of the dayも,環境NGOの意見で,バイアスがかかる傾向があるのですが,今回はみなの意見を代表しているような気がしました.

 

Japan: No to Kyoto Under Any Circumstances

When leadership was needed most, the home country of the Kyoto Protocol made a de- structive statement in the KP plenary. It re- jected a second commitment period of the Kyoto Protocol by saying ‘Japan will not inscribe its target under the KP on any condi- tions or under any circumstances’.

‘Preferring’ a single-treaty approach is one thing, but aggressively denying the future of Kyoto is quite another. The statement upset many Parties and created an unconstructive atmosphere.

This COP was supposed to be the place to rebuild trust among parties, but Japan’s move not only could degrade trust but even poten- tially wreck the negotiations.

At a time when the world is seeking to strengthen the climate regime, Japan’s hard stance, in the guise of getting the US and China to make mitigation commitments, risks leaving us with no deal at all.

A large majority of Parties have said they want a legally binding outcome. It’s time they hold firm to the legally binding treaty that was so hard-won in those late nights in Kyoto. Japan should honour the basic frame- work that all countries agreed in Bali, which is for developed country Parties to continue their mitigation obligations under the KP, for a legally binding agreement under the LCA track to include comparable efforts for the US, and for the developing countries to un- dertake nationally appropriate mitigation ac- tions that are supported by finance, technol- ogy and capacity building.

Does Japan really want to be known for the burial of the Protocol that was born in one of its beautiful cities?

 

それでは,また.

松尾 直樹 @木曜の朝

 



カンクン会議: 2日目 [地球温暖化問題の国際交渉]

2日目は,静かに始まりました.国際交渉は,補助機関会合の本会合が動いていましたが,わたしはもっぱらサイドイベントを見ていました.なにせ,サイドイベントの開かれるカンクン・メッセと,交渉の行われているムーン・パレスは,往復すると1時間半かかるのです...

サイドイベントで一番注目されたのは,CDM理事会によるQ&Aセッションです.

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悪名高かった(?)手続きのストリームライン化の話が,来年早々には片が付くという感じでした.

もうひとつ,最大の排出権(CERs)供給プロジェクトのタイプであるHFC-23破壊プロジェクトの方法論AM0001に関する話がありました.実はこの方法論は,最初にわたしが開発したもので,ゲーミングという概念を盛り込んだ最初の方法論でもあります(というか承認された方法論では最初ですね).さらなるゲーミング防止方法を加える形で,改訂されるようです.フィードストック系の話があるので,テクニカルに難しい点があるのですが...

このAM0001は比較的新しいプラントは対象外で,その意味でそのようなプラントは,HFC-23を出し放題です.そこも含めて,(CDMだけでなく)国際的な制度の中で,たとえばファンドなどをつくって破壊装置の導入を進めてもらいたいものです(と,発言したのですが,ピンときていないようでした.モントリオール議定書で扱おうとした試みは頓挫しています).

日本の機関であるエネ研,OECC,JICA,GECなどによるサイドイベントもあり,CDMのポジティブリスト作成や,コベネフィッツの重要性などが議論されました.盛況で関心を集めたのはいいのですが,もう一歩,具体性をもたせるための踏み込んだ分析をしなければ... というのが惜しまれます.

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その他,現行のCDMのリフォーム方法などのサイドイベントなどに参加しました.

ここメキシコは,とうがらしをはじめ,魅力的な野菜が多く,会場でもディスプレイしていました.仕事で忙しく,なかなか食べる機会がないので,こんばんは,どこかに食べにいこうかと思っています.

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そうそう,毎日 ENB (Earth Negotiation Bulletin) という交渉情報が出ます.そのなかで,"In the Corridor" という記事を真っ先に読むのですが,今朝出たものの中に,日本の話が出ていました.

Some, however, were heard wondering about the impact of Japan’s “bombshell” statement on Monday that it would neither inscribe its commitments in an amended Protocol Annex B, nor accept a COP/MOP decision extending the Protocol’s first commitment period or establishing a second commitment period. One seasoned observer estimated that “the lines in the sand are now clearly drawn - Japan won’t accept a second Protocol period and many developing countries saying there will be no progress under the AWG-LCA without concrete progress under the AWG- KP.” 

日本が交渉をブロックするくらいなら,「きちんと低い目標をプレッジする」という戦略に変えたらいかがでしょうか?日本の最大の関心は,自国が相対的に厳しい規制を負うことでしょう.米国や中国が法的拘束力のある枠組みに入って来れないことがわかっているのに,それを条件にする(隠れ蓑にする)ことは,かなり問題があると思います.どの国も,その国の目標は自国で宣言したものをベースに交渉されます.けっして,25%を強制されるものではないのですから.

それでは,また.

松尾 直樹 @風の強い三日目の朝


カンクン会議 (COP 16/CMP 6) が始まりました [地球温暖化問題の国際交渉]

いよいよカンクンでのCOP 16およびCMP 6が始まりました.COPとは,気候変動枠組条約という世界全体で地球温暖化問題に対処していこうという広い枠組みを規定した国連の国際協定の,締約国会議 (Conference of the Parties) です.CMPとは,京都議定書=まず先進国から数値目標の形で具体的対策を採っていく国際協定の締約国会合です.

 

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「共通だが差異のある責任」という条約で確立されたコンセプトの下,まず先進国から... ということを具現化したものが京都議定書であるわけですね.そして,その先進国の約束をいかに強化していくか?それから途上国もどういう形で対策を実効性のある形で強化していくことができるか?が,最近の国際交渉のテーマです.

昨年のコペンハーゲン会議 (COP 15/CMP 5) では,先進国の持っていた大きな期待 (ひとつの統一された議定書で双方をカバーする) と,途上国の「まだその段階ではない」という現実路線(?)とのギャップが大きく,残念ながらこの問題で結論を出すことができませんでした.これまでの交渉プロセスは,以下の図をご覧ください.

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日本は交渉のポジションを変えていませんが,EUは途上国の頑なな態度に遭い,いまは世界全体のモーメンタムを削がないためにも,まず京都議定書の第二期を決めてしまい,同時に途上国の次のプロセスを動かすことを狙っているようです.米国は中間選挙の影響もあり,リーダーシップが期待できる状況にはありません.

(好き嫌いの問題はさておき) EUの指向する方向性が,今回のカンクン会議の結論となるかと思います.国際協定の形をとるのは,来年の南ア・ダーバン会議とするという結論となるでしょう.なお,暫定運用則ともいえるコペンハーゲンアコードは,ボランタリーな行動をベースとしたものですが,先進国に関しては現行の京都議定書の法的拘束力に基づいたもので,途上国はボランタリーながら,その実効性を担保するものとして,数量的なMRV (測定,報告,検証) を基調に,新たな運用則策定プロセスが始まると思われます.

以上は,ざっとみたわたしの予想です.どうなるかは,終わってみなければ分かりません.先進国と途上国の中間的な位置づけにあるメキシコの議長国としての采配に期待しましょう.下は,COP で議長の采配をふるうメキシコの外務大臣Patricia Espinosaです.

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今年も,好評だった COP の報告セミナーを 12月21日(火)に,開催いたします.PEARのWeb案内がありますので,よろしかったらご参加ください.3時間,みっちり,基礎から専門家の分析までお届けします.メディアや役所の発表だけではものたりない,本質が何でどうなっていきそうか?をお知りになりたい方には,最適なセミナーだと自負しています.Q&Aの時間も長くとる予定です.

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さて,カンクンは,長い砂浜に代表されるリゾート地です.わたしはいつものようにコンドミニアムタイプの部屋に泊まっています.1万人(?)の参加者の中で「自分で」お金を出して参加している人は,そんなに多くないはずで,二週間は長いですからね... 目の前は紺碧の海で,潮騒を聞きながら仕事に勤しむことができます(笑).

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初日は,いくつかのサイドイベントに出ました.そのひとつ,JI監督委員会(JISC)のイベントは,2013年以降,JIがどうなるか?を議論していました.詳細は,JISCのCMPへの報告をごらんいただくとして,2つのトラックをマージすることを含め,いろいろなオプションが検討されています.

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その他,CDMベースラインの標準化に関するサイドイベントにも出ましたが,まだ理論的整理がイマイチという印象でした.クライテリアが詰められずに標準化(正確には単純化)が議論されている程度です.もうすこししたら,ペーパーでも書きましょう.

夜には,メキシコ政府主催のレセプションがありました.暗い中で食べ物をとったら,辛....

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ちょっとインターネット環境がよくないのですが,またご報告いたしますので,おたのしみに.

松尾 直樹 @二日目の朝


コペンハーゲン会議から《会議が終わって》 [地球温暖化問題の国際交渉]

コペンハーゲン会議が終わりました.金曜までの会期ですが,終わったのは土曜の現地時間の 午後3時半です.

100カ国を超える国の首脳がやってきて(潘基文さんもこれだけの数の首脳が一堂に会するのを見たのは初めてと言っていました),オバマ大統領を含めたその中の25カ国の首相や大統領が,Friends of the President として,徹夜の交渉でまとめた「コペンハーゲン・アコード」も,小島嶼国のグレナダなどの涙ながらの訴えにもかかわらず,COP (CMP) の本会議でコンセンサスを得ることができず,そのままの形で採択されることはできませんでした.

ただ,このアコードは,COP に take note されることとなり,有志国が集まって,実質的に運用していくことはできそうです.Friends of the President の 主要25か国はもとより,かなりの国が賛成していましたので,かなり実質的なものとして機能していくことが期待されます(コペンハーゲンアコードは,すでに UNFCCCのトップページに,他の決議文書と一緒にアップされています.なお下の写真はENBからです).

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さて,この会議は,わずか半歩の前進に終わったわけですが,簡単に分析してみましょう.

世界の国々,とくに温暖化問題を早く対処すべきと思っている国々や人々にとって,コペンハーゲン会議にかける期待は非常に大きなものでした.大きすぎた=拙速すぎた... と言えるでしょうか.「科学からのシグナルや脅威感」と,「排出削減対策や目標が現実的に可能かどうか?」という点が常にせめぎ合うわけです.最近では 前者が先進国政府の中では支配的となっていました.

一方で,大排出途上国にとっても,自国の経済開発にとって 省エネの重要性をかなり認識するようになってきて,今回も会議に先立って,自主原単位目標を宣言してきた国が多数でてきました.ずっとこの世界を見てきた私にとって,これにはすごく大きな「うねり」を感じたものです.

ただ,それも程度問題で,やはりステップ・バイ・ステップでしか進むことができないわけです.すなわち,いきなり3歩進むことを先進国が要請したため(バリ行動計画のマンデートを超えて ひとつの統一的な国際協定合意を主張したわけです),拒否感が強く出てしまったと言うことでしょう(表面的にはデンマーク政府の 会議の合意への持って行き方の不透明性が問題化しましたが,その裏には,先進国との間の信頼感が醸成できなかったことがあると思います).

アナロジーとして,日本の産業界のこれまでの動きを振り返ってみるとわかりやすいでしょう.

京都会議の前に,炭素税などを課せられる前に自分たちで行動を,としてつくったのが経団連の自主行動計画です.あくまで「自主」に目標を宣言し,政府からの規制という形を拒否した姿がそこにありました.それが次第に,社会公約になって,自主的な第三者検証の導入に加え,政府の行動計画に組み込まれたり,政府審議会でのレビューが入るようになり,目標強化のプレッシャーが政府からかかるようになっています.次は cap-and-trade でしょうか.

これをいまの途上国にあてはめるとどうでしょう? まさに自主目標策定の段階であるわけです.MRV (measurable, reportable, verifiable) といっても,内政干渉を嫌ういまの中国などの姿は,まさに同じと言えるでしょう.経団連の自主行動計画は,日本の産業界にとって実効性を保ついい手段でしたし,長い年月をかけて,いまのような姿となっています.途上国の枠組み形成にも 同様のステップを踏んでいくことが必要である,と,今回のコペンハーゲン会議は教えているのかもしれません.

わたしも,もうすこし考えてみることにします.22日 (火) の報告セミナーでは,そのあたりを詳細に分析した内容をお話しできるでしょう(CDMや排出権市場の発展などや,今後へのインプリケーションの話もします.まだ席はあるようですので 有料ですが よろしかったら PEARのサイトから お申し込みください).

それでは,日本で再見!

松尾 直樹@コペンハーゲン



コペンハーゲン会議から《最後の徹夜の交渉》 [地球温暖化問題の国際交渉]

いま,ちょうど環境大臣級の徹夜の交渉が動いているところだと思います.写真は,COPのWGの様子です (ENBより).

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夕方の4時には,鳩山首相も到着して,さっそくクリントン国務長官,温家宝首相,ラスムセン首相と話し合いをしたようです.日本代表のプレスリリースなどをきくかぎり,会合はかなりポジティブに行われたようです.

ちょっと気になるところがあります.条約の下の LCA に関して,この スケジュール表 が出ていました.COP決定となる 各エレメントに関するドラフティングの表です.いまの段階でこのようなことをする余裕があるのでしょうか?

ドラフティングのファシリテータは,コンタクトグループで担当した各国の行政官レベルです.AWG-LCAでさんざん交渉して決まらなかったものを,彼らにそれ以上のものを望むのは難しいでしょう.それができるのは,大臣級であるはずです.そのために彼らが来ているわけですから.そして彼らの役割は,首脳会合に向けて,きちんと文書を整備することです.

過去を振り返ってみますと,京都議定書のルール,すなわち マラケシュアコード (ものすごい量のドキュメントです) の前に,ボン合意 を,その「きわめて政治的な部分をまとめた合意文書」としてまず合意されました.いまの段階でコペンハーゲンで行うことは,これかと思います.

正直言って,AWG-LCAは,まだ詳細まで詰められたものとなっていません.このドラフティングを行うより,100カ国以上の首脳が集まってすべきことは別にあると思います.

京都議定書の時のエストラーダ議長も,ハーグ,ボンの時のプロンク議長も,途上国にも先進国にも,きわめて信頼できる会議運営を行いました.デンマークはこの点で戦術を誤り,その結果として途上国の要求を過度に聞かざるを得ない状況になり,さまざまな内容に溢れたAWG-LCAのテキストの個々を個別に扱うようなことになったと思われます.

本来は,議長の責任として,その中の (そしてそれを超えた) 政治的な部分を抽出し,わかりやすい形でパッケージ化し,その部分に集中した交渉を議長のリーダーシップの下で行うべきです.もちろん,その前にきちんと 主要国に対しては 裏でバイで説明をし,合意をできるだけ得るようにしてから,多くの国の前で諮るべきです.

わたしの懸念が杞憂に終わればいいのですが...  あと,ほぼ一日(一日半?)で結果が出ます.さて,どうなるでしょうか?

松尾 直樹



コペンハーゲン会議から《ハイレベルセグメントがはじまりましたが...》 [地球温暖化問題の国際交渉]

会議は,いろいろ錯綜しています(もっとも錯綜しなかった会議もなかったような気がしますが).

ロジ系の話も,ついにわたしも会場から閉め出されてしまいました.いやはや... という次第です.次回のメキシコ,その次の南ア,その次の韓国のCOPでは,そんなことはないと思いますが...  7, 8時間寒いところで待ったあげく入れなかった... という話もききましたし,運営がいろいろ困った状況です.もっとも 3万人といういつものCOPの 3倍を超える人や,100人を超える首脳がやってくる... わけですので,デンマークだからこの混乱で収まっているということもあるのかもしれません.下の会場がもう見られない... のも残念ですね.

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昨日のCOPでは,デンマークのConnie Hedegaard COPプレジデントが辞任し,首相のLars Løkke Rasmussen氏がCOPプレジデントになりました.いろいろなかんぐりはともかく,彼が COPの場で 新しい(交渉のベースとなる)ペーパーを配ろうとしたのですが,これが「天から降ってきたもの」として途上国の総反対にあってスタックしてしまいました.中身より手続きの問題です.中身はおそらく,先週にGuardianにリークされた文書のバージョンアップ版だと思われます.

ちょっと,デンマークの戦術が稚拙だったですね.おそらく,先進国にはそれなりの根回しはできていたかと思うのですが,本来,途上国の首脳クラスにきちんと (EUなどのチャンネルも最大限活用しながら) 根回しすべきだったと思います.それをいきなり COP の本会合で出したなら,それはプロセスの不透明性を叩かれるでしょう(下記の写真はENBより).

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木曜,金曜の密室の交渉によって,どこまで首脳を動かせるか?ということになります.デンマークだけではしんどいですから,先進国を一枚岩にして,途上国をトップから崩しにかかってもらいたいものです.米国とはおそらくそのテキストで,根回しができているようですから.

途上国も自主目標を出してくる国が相次いでいますし,日本やEUなども資金拠出を大幅アップを表明しています.形式上は,AWGのテキストをベースに,政治的な判断を入れたテキストとして仕上げるだけの時間があるか... ですね.2年後などを目指して新たな法的枠組みを作るという合意さえ得られれば,御の字でしょう.

たとえば,2年後に新しい法的枠組みを作ると言うことにしておいて,今回 合意しておいた 京都議定書 第2期の目標の値や合意内容は,そのままその新しい枠組みに移行する... としておけばいいわけです.マラケシュアコードも,議定書が発効したときのモントリオールでの CMP決定を,事前にマラケシュで合意しておいたわけです.同じようなことですね.

All or Nothing という判断は危険です.今度,COP resumed session (COP 15 bis) を開いたとしても,これだけの首脳が集い,政治的モーメンタムを保つことができるか... ということですから.

われわれのできることは,外から見守るだけです.国際政治の "Will" に期待しましょう.

松尾 直樹

 


むかしを思い起こすと,ハーグ会議 (COP 6) において,オランダのプロンク議長の用意したプロンクペーパーが 交渉のエレメントを綴ったものとしてありました.リンクの4ページ目からご覧ください.

 

現在,2つの WG で,KP と LCA の交渉が,2つのペーパーをもとに,Connie Hedegaard氏を議長に行われているようです.おそらく,首脳が来るまでになんとか問題をしぼって,最後の決断を首脳に任せると言うことでしょう.うまく問題を整理して,パッケージ化して,妥協案を作成できるといいのですが...

なお,この Decision 1/CP.6 は,

"Decides to suspend its sixth session and requests its President to seek advice on the desirability of resuming that session in May/June 2001 in order to complete work on those texts and adopt a comprehensive and balanced package of decisions on all issues covered by the Buenos Aires Plan of Action;"

となってしまったものでしたが,今回はうまく道をみつけてくれると信じています.


コペンハーゲン会議から《二週目の月曜が終わって》 [地球温暖化問題の国際交渉]

第二週目に突入しました.みなさんは,新聞報道などで,会議が紛糾していることをご存じかと思います(街中でのデモなどもあり場外も紛糾?).ですが,いままで歴史的にも 紛糾しない会議はありませんでした.その意味でわたしはまだこの会議の結果に楽観的です.

さて,今後どのように会議の行方を見ればいいのか... すこし整理してみましょう.

先進国は,京都議定書のトラックと,気候変動枠組条約のトラックを別々に交渉することを拒否しています.唯一の法的枠組みを作る... ということにこだわっているわけです.

一方で,途上国は,あくまで京都議定書の第2期交渉というトラックは,別立てで交渉することを主張しています.

バリでの決定を読む限りは,途上国の主張がおかしなものではなく,先進国の主張はバリで決定されたマンデートを超えた主張をしているということになります.

それにもかかわらず先進国が「一本化」にこだわっている理由は,京都議定書(やその中の数値目標交渉の中身)に不満があるのではなく,先進国のトラックだけが先に行って,途上国はおいてきぼり,いつになったらきちんとした国際枠組みの中で位置づけられるかわからない状況となることを怖れているわけです.したがって,政治的モーメンタムのついているコペンハーゲンで決めておきたい,ということですね.

最終的には首脳がきわめてハイレベルの政治判断として決定することになるわけですが,実際問題として,途上国があれだけ反対して,かつマンデートになっていないことまで合意し,かつ国際協定の形とする(そのテキストを用意して合意しなければなりません)ことは,並大抵のことではできません.すでに時間的にムリであると言えるでしょう.

言い換えると,先進国側が「本当に狙っている」のは,そのような「新しい国際協定への道」を「マンデート」として(時間を区切って,たとえば 2年後=COP 17 で)合意する,ということにコペンハーゲンで合意するということかと思います.京都議定書のいまのプロセスでの決定事項は,そのままそこに引き継がれる... という決定にしておけばいいわけですね.そのために,いまはまだ,新たな一本化された国際協定の旗を降ろすときではない... という判断かと思います.すなわち,give-and-take のシビアな交渉は,大臣級の密室の中で,その落としどころが,上記のような点でしょう... と,わたしの水晶球は言っています.

さて,月曜日の場外でのハイライトは,アル・ゴアがやってきたことでしょうか.私は残念ながら彼の参加したサイドイベントに入れませんでした.狭い部屋にすごい人でしたので... 

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そのサイドイベントは,北極圏の氷床に関するサイエンス面のサイドイベントです.たとえば,北極の夏の氷が IPCC予測を上回って減ってきていることをご存じでしょうか?(下記の赤線です) 自然からの「警鐘」であるわけですが,国際交渉を行っている人々に届くでしょうか...

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また,会場ではいろんな動きがあります.下の写真の左下は,韓国の代表が,CCAPという排出権取引を強力に推進している米国民間シンクタンクのヘッドとなにやら話をしているところです.韓国は,国内排出権取引制度を真剣に検討していて,2011年か12年頃に導入するようです.日本より早いかもしれませんね.

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松尾 直樹


コペンハーゲン会議から《一週目を振り返って》 [地球温暖化問題の国際交渉]

ちょっと忙しくてブログの更新ができませんでした

会議は前半の一週間が終わり,いよいよ二週目に突入します.3万人以上の参加申請があり,なんと国の代表団以外は人数制限されてしまうことになりました(はじめてです).わたしはちゃんと入場パスを確保できたのでよかったのですが,日本からはるばる来たのに入れない人も多数出てくるわけです.いやはや...

一週目の交渉のハイライトは,AWG-LCA, AWG-KP の両方の交渉プロセスに関して,議長テキストが出てきたことでしょうか.UNFCCCのWebサイト に出ていますので,ぜひご覧ください(11日バージョンよりさらに新しいものが出ているようですが 代表団オンリーだったので入手できていません).

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また静かに 決定文書である Lドキュメントも出てきつつあります.その他のドキュメントで,わたしがひそかに注目しているのは,技術移転の文書とそのサマリーです.わたしの視点は,新しい枠組みの法的な性格といった目立つものもそうですが,むしろ「実質的にワーカブルな」地に足のついた仕組みが用意できるか?という視点です.MRV (measurable, reportable, verifiable) というバリ行動計画で導入された概念は,それを確保しようとしているわけです.この技術移転の文書は,パフォーマンスインディケータに関するもので,緩和策に関する NAMA (nationally appropriate mitigation actions) が,MRVという形で実質的に機能するための,重要なものとなります.

もうひとつ,National Communications という仕組みが UNFCCCの下であります.先進国にも途上国にも「義務」となっている重要なプロセスです.先進国には in-depth review という審査プロセスもあります.まずは「知る」「報告し 情報を共有する」といったところの重要性を認識した仕組みで,GHGインベントリーとともに,facilitationを基調としたUNFCCCの運用の基盤を成していると言うこともできるでしょう.このプロセスをうまくMRVの視点から ガイドラインの改定というプロセスにおいて,実効性を高めていく... といった方法も有効ですね.

さて,上記の「ワーカブルな仕組み」という点から AWG-LCAの議長テキストを読むと,リークされたデンマークのテキストと比較して,やや劣るということが言えるでしょうか.これからの refine が期待されます.

これらの文書は,今後の交渉で refine され,できるだけ絞り込まれ,それでも合意できなかった部分(とくに政治的要素のつよい部分が残されます)は その部分が 括弧 [   ] 付きで,AWG-KPで採択されます.そして,週の後半の大臣クラスの交渉に持ち込まれるわけです.さいごには,COP Decisions, CMP Decisions という形でまとめられます.

ひとつ,今回のコペンハーゲン会議の outcomes をどう考えるか?という点をみてみましょう.

先進国は,京都議定書と条約のプロセスの融合として,新たな国際協定の合意を主張してきています.巷の報道でも,それができることがコペンハーゲンの目的であるという言い方がされることもあります.ただ,このプロセスのはじまりであるバリ行動計画をどう読んでみても,そのようなことまでは書いてありません.もちろんそこまでの合意ができたらすばらしいことでしょうが,マンデートになっていないことまで合意する... ことは,かなり難しいのが国際交渉の現実です.

ひょっとしたら,首脳レベルの交渉で動くかもしれませんが,それは「デッドラインを決めて,新たな国際協定合意を目指すプロセスを立ち上げる」というレベルでしょう.わたしはそこまでできたら十二分だと思います.またそのような決断は,けして行政官ではムリで,きわめて高度な政治判断となるわけですね.首脳たちの地球温暖化問題への気持ちに期待しましょう.

一方で,京都議定書の第2期の数値目標の交渉は(モントリオール会議からのマンデートとして)動いており,これは合意されるでしょう.米国,中国,インド,ブラジルなど,主要国が (国際枠組みの中で位置づけられるわけではないとしても) それなりにプレッジしてきています.オバマ大統領を含め,100カ国を超える国の首脳が集い,この政治的モーメンタムの中で,日本が 25% 目標を降ろすことはむつかしいかと思っています.EUは欧州理事会を開いたようですので,20%からさらに目標を挙げてくる可能性もあるでしょう.

コペンハーゲンは,「次のプロセスに繋ぐこと(マンデートの設定)」と,できるだけ「実質的でワーカブルな仕組み」を既存の枠組みの中に組み込むことができるか?が,ポイントであると思っています.

松尾 直樹

 


コペンハーゲン会議から《三日目》 [地球温暖化問題の国際交渉]

会議の三日目のようすです.

事務官による交渉プロセスが動いていますが,そろそろ大臣級が集まり始めているようです.最終的には,環境大臣だけでなく首脳も100カ国以上参加するという前代未聞の状況になります(セキュリティーの点からわれわれはどうなるのでしょう?).

さて,三日目に参加したサイドイベントのひとつに,途上国貧困地域における Cooking Stove に関するものがありました.われわれPEARが行ってきているバイオガス・マイクロダイジェスターも,厨房用エネルギー供給で,従来型の練炭や薪の調理ストーブを,ガスコンロに転換するものですので,類似のものですし,「求めているところ」は同じだと思います.

そこで学んだことの一つは,煤の人体への影響の大きさです.屋内大気汚染問題が,かなり大きな問題であることを知りました.そのうちにきちんと(それをなくすことによる便益を)定量化したいと思っています.

屋内スモーク1.jpg

屋内スモーク2.jpg

屋内スモーク3.jpg

さて,昨日お伝えしたリーク文書ですが,よく読んでみるとなかなかよくできています.すこしそれを考えてみましょう.

ひとつは,(コペンハーゲンで legally binding な国際協定に合意するのが難しい中で) とりあえず「運用できる」枠組みとしてコペンハーゲン合意を位置づけ,タイムフレームも決めた形で,きちんと次の国際協定合意につなげるということを謳っていることです.

Shared Vision のところでは,グローバルな排出量のピーク時期と,2050年半減という "goal" を設定しています(先進国は80%削減).これは現世代の最高意思決定者(首脳たち)からのメッセージとなるわけです.

緩和 mitigation (CO2などの削減に関する点です)に関しては,とくに途上国に関して,いろいろ「実質的な」すなわち実効性のある方法が導入されています.これに関しては,また次回にでもご紹介しましょう.

一方で先進国に関しても,目標は当然 京都方式の絶対量目標ですが,途上国支援関係に関しても,MRV (measurable, reportable, verifiable) な仕組みをきちんと用意しています.「言いっぱなし」にならずにきちんと実効性・運用性を高めるという点を重視しているのがいいですね.

もちろん,これがそのまま合意されることはないでしょうが,ひとつのイメージとして,決定前の事前分析には役にたつ文章です.

松尾 直樹



コペンハーゲン会議から《二日目》 [地球温暖化問題の国際交渉]

会議の二日目のようすです.

交渉プロセスとサイドイベントが,多数,同時並行的に動いてきますので,自分の興味のあるところをはしごするというスタイルとなります.

わたしが傍聴したサイドイベントは,欧州委員会による2011年からの欧州に乗り入れる航空機に対する規制に関するもの,IPCCのAR4以降に関するもの,CDMのリフォームに関するもの,CDM理事会によるQ&Aセッション でした.

欧州委員会の考えは,非常にわかりやすくかつ強力です(もちろん欧州閣僚理事会や欧州議会にサポートされています).RoHSやISOもそうでしたが,欧州が世界の(実質的な)ルールメーカーとなってきそうです.地域の規制のグローバル化ですね.その最初の動きが航空業界といえるかもしれません.

IPCCは,今動いてきているAR5 (第5次評価報告書)に加え,異常気象に関する特別報告書の動きが注目されます.

CDMは,かなりみなさんの不満が溜まったいるようですが,CDM理事会もいまの事務局100人体制を 140人に増やして対応していくようです.スムーズに手続きが進むようになればいいのですが... (下の写真はCDM理事会のQ&Aの様子です)

CDM_EB_Q&A.jpg

さて,交渉ですが,先進国の次期目標を交渉するコンタクトグループで,先進各国のコミットしてきた数字をまとめた資料が配付されました.ロシアの数字が,10~15%と記載されていたが 20~25%になりましたのでやや変わると思いますが,先進校全体で,16~23% (1990年比)といったところのようです.ただこれは京都議定書のプロセスなので,米国は除きます.

最後に,英国の新聞社Guardianが,11/27バージョンのマル秘の資料をリークしました.COP決定の最初のもの... という位置づけのもののようです(Copenhagen Agreementという名前が付いています).ちなみに,(米国を除く)先進国の数値目標は京都議定書の締約国会合CMP決定として,別立てで出てきます.なかなか興味深いですが,全体的印象としては,落としどころをそれなりに捉えていると思います.

次のプロセスに繋げることもきちんと想定されていますし,その際の法的文書に組み込むべき点も示されています.この内容に近いところで,環境大臣や首脳が最終合意するということは,十分にありえると感じました.もっとも,COP決定の他の部分や,CMP決定の方も重要で,これだけではありません.

国際交渉のやり方に関する点を,すこし解説いたしましょう.正式な COP Plenary (UNFCCC),CMP Plenary (京都議定書)の下に,2つの SBSTA,SBI という補助機関(というか交渉プロセスです)があり,今回は加えて,AWG-LCA (UNFCCC),AWG-KP (京都議定書) という 2つの(コペンハーゲン会議のための)交渉プロセスが動いています.

このような公式の会議に加え,交渉テーマの各要素に関して,コンタクトグループという交渉プロセスが動きます.この結果をAWG, SB, COP, CMPなどに持ち寄るわけです.さらに交渉が煮詰まってくると,それがクローズドになります.

二週目の後半には,ハイレベルすなわち大臣クラスが乗り込んできます.今回は首脳まで来るようですね.だんだん交渉が佳境になると,グループはより小さく,よりハイレベルとなっていくわけで,Friends of the President というような名前で,キーとなる少数国だけでの交渉が徹夜で行われることになります.

そうなるとわれわれはまったく蚊帳の外ですので,結果が出てくるまで待つしかありません.そして,最後には,COP や CMP の Plenaryが開かれ,そこで合意された文章が呈示(Lドキュメントと言います),通常であれば,そのままあるいは微修正で,COP or CMP 決定となるわけですね.

松尾 直樹



コペンハーゲン会議開幕 [地球温暖化問題の国際交渉]

 

コペンハーゲンの二週間の国際交渉会議が始まりました.二週間といっても,実質,来週の金曜日の徹夜の交渉後の土曜日に閉幕するでしょう.

発展途上国の中で,中国,ブラジルなどに続いて,インド,南アなども自主目標を公表したりして(ちょっと昔には本当に考えられないすごい進歩です!),かなり大きな政治的モーメンタムを感じます.オバマ大統領をはじめとし,100か国程度の国の首脳が集結するらしいですので(通常は環境大臣クラスどまりです),二週目の後半にはおおいに期待ができると思います.環境大臣+首相/大統領 の二人のタッグで(事務方なしで)交渉するのでしょうか... いちど見てみたいですね.

一日目は,オープニングセレモニー+COP 15 Plenary,CMP 5 Plenary,AWG-KP Plenary,AWG-LCA Plenary などの全体会合が続きました.COPは気候変動枠組条約の締約国会合,CMPは京都議定書の締約国会議,AWG-KPは京都議定書の第2期目標を決めるアドホック交渉プロセス,AWG-LCAは条約の今後の取り組み強化に関する交渉プロセスです.

二日目から,多くの非公式なコンタクトグループにおいて,実際的な交渉が動き出します.

これらの交渉プロセスと並行して,場外でさまざまなサイドイベントが開催され,これをみるだけでも,COPに来る価値が十分にあります.わたしは,JI監督委員会のQ&A,新しい市場メカニズムに関するセミナーなどに参加しました.後者は,研究者レベルからもまだ具体的なイメージを描ける提案が出てきていないのが気になるところでしょうか(今回のCOPまたはCMPで導入の可否が決定されます).

この交渉会議のいいところは,むかしからの知己にたくさん会える(いろんな人が集う)場であるということです.京都会議時点の通産省の室長さんであった桜井さん(いまロンドンのChatham House在住)にもお会いしました.彼はAWGのことを つい AGBMと昔の(京都議定書を策定した)交渉プロセスの名で呼んでしまうそうです(笑).

一日目の印象で最も強かったのが,COPプレジデントです.COPプレジデントは,毎回,ホスト国の環境大臣が務めるという慣習となっています.デンマークの環境大臣である Connie Hedegaard 氏は,女性ですが,声も大きく,きわめて強い意志とメッセージを伝えました.わたしは歴代COPプレジデントの中で,屈指の指導力が発揮できるのでは?と期待しています.欧州としては,ハーグの(交渉失敗の)二の舞は踏みたくないでしょうから,EUをあげて彼女をサポートしてくるでしょう.長い空白期間を経て,積極的な米国も戻ってきましたので,とても期待の持てる会議となりそうです.

COPプレジデント.jpg

会議の様子などは,ENBのサイト に(サイドイベントの様子などまで) 詳しく出ますので(写真もたくさん出ています),ご覧ください.雰囲気が味わえるかと... なお,ENBは GISPRI がタイムリーに 翻訳してくれますのでこちらもどうぞ.

さて,このブログでは,すこしずつ(温暖化)国際交渉の(暗黙の)ルールに関してご紹介していきましょう.

まず,国際的な枠組みは,Step-by-Step で進んでいくものであるという認識が必要です.一足飛びに大きく進むということは滅多にありません.あるとき「いつまでにこのような決定を行う」という決定をまず行って,そのデッドラインに突き進むわけです(重要なことは,一度決まったことは(たとえ反対していたとしても)きちんと尊重します).たとえば AWG-KP は,京都議定書の第二期目標を決めるプロセスですが,それは議定書の中に以前から織り込まれていたわけですので,スムーズにモントリオールの CMP 1 でローンチされました.AWG-LCA は途上国の新たな対策などを含むので,AWG-KP に遅れること 2年間 かかりました.いきなり交渉プロセスに移れず,まずダイアローグを 2年間行ってから,なんとかバリ会議 (COP 13) で交渉プロセスを導入できたわけです.これらは,いずれも,このコペンハーゲンで決定が行われることになっています(ひょっとしたら後者は また次のプロセスが策定されるかもしれません).

どうのこうの言っても,さまざまな困難にもかかわらず,すこしずつ着実に前に進んできたことは,歴史が証明しています.今回も,世界の政策決定者の「意思」に期待しましょう.

松尾 直樹



コペンハーゲンに到着 [地球温暖化問題の国際交渉]

 

コペンハーゲンにやってきました!

そうです.月曜からいよいよコペンハーゲン会議が始まります.気候変動枠組条約の締約国会議(COP)の第15回目(ちなみに3回目が京都会議),京都議定書の締約国会合(COP/MOP)の5回目です.

2013年以降の国際的枠組みに関して,さざまざな決定がなされることとなっています.

UNFCCC事務局長 Yvo de Boer のアナウンス などをご覧になるといいでしょう.

前半のハイライトはなんと言ってもオバマ大統領がやってきて,米国の数値目標を宣言することですね(そのあとノーベル平和賞の授賞式に出席となります).どうせ,会議は二週間目の首脳/大臣によるハイレベル会合にならないと動かない... ということかもしれませんが,オバマ大統領の登場によって大きく動いてくることを期待しましょう.

わたしが最初のこの手の国際交渉会議に参加したのは,COP 1の二回前の準備会合である INC 10 でした.その意味で継続的に係わっている人の中では,日本では最古参となっています.その後,さまざまな機会において,国際交渉で議論されたり決まったことを報告してきました.旧くに エネ研の会員企業だった方は,わたしの京都会議の報告を覚えておられるかもしれません(あのときは一週間に5時間しか寝ずにがんばったものです.若かった...).また,京都会議の前には,議定書の内容に関するプロポーザルなども出しました.

さて,もうご存じの方もおられるとは思いますが,コペンハーゲン会議の報告セミナーを,なんと終わった直後の 12/22 に行います.詳しくは,PEAR のWebサイト をご覧ください.

Copenhagen会議の結末.jpg

交渉の機微などは物語としては面白いかもしれませんが,むしろ,決まったことをきちんと分析し,それをどう理解し,われわれのこれからの行動という点からどのようなメッセージを受け取るべきか?という点を,解説したいと思っています.もちろん,歴史的経緯や,さまざまな背景なども,できるだけわかりやすく解説いたしますので,有料ですが,よろしかったらご参加ください.(参加される方にとっては出張報告のベースとなりますね(笑))

おいおい,会議の様子や,そもそもこの会議をどう理解しなければならないか?という点を解説していきましょう.ちなみに,日本のメディアの方々は,おそらくきちんとCOP決定などを読んでいないと思います.したがって,誰かから聞きかじったことを報道していることが多いようですね.バイアスのかかっていない正確な理解をしたいものです.ちなみに,日本でよくきく「ポスト京都」という言葉は,かなりミスリーディングです.

それでは,あしたからの解説や報告をおたのしみに.

松尾 直樹

ベラセンター.png


POZNAN会議の状況 2 [地球温暖化問題の国際交渉]


ポーランドのPoznanで開催されていた COP 14 (& COP/MOP 4) が,二週間の会期を経て終わりました.ボランタリーなカーボンオフセットとはすこし異なる視点となりますが,ここでそれを少し振り返ってみましょう.

来年のコペンハーゲン会議で,新しい方向性がいろいろ決まってきます.日本ではメディアなどで「ポスト京都」という言葉で表現されるときがありますが,これはミスリーディングです.とくに,発展途上国の数値目標が入った新しい国際協定ができるようなことは,予定されていません.

国際交渉は,2013年以降の先進国の数値目標を決めるトラックと,発展途上国を含めた対策強化のトラックの2つが並行して動いてきています.

日本にとって直接効いてくるのは,あきらかに前者です.また,数値目標自身は,来年の6月6日までに,そのテキストに合意する必要があるのです!そのことをきちんと理解している日本人は何人いるのでしょうか?井の中の蛙では困ります.

先進国の数値目標は,まず先進国の排出総枠に合意し(来年3月の交渉会議),6月には各国の目標に合意する予定となっています.よく考えるとわかりますが,「総枠」は環境問題,「各国目標」は公平性/負荷分担 の話となっています.これをちゃんと分離することがいいですね!

発展途上国関係は,Bali Action Plan として,Long-Term Cooperative Action を,どうしていくか?という話です.GHG排出削減を表す mitigation だけでなく,adaptation,技術移転,ファイナンス が,同列に扱われています.それから,Shared Goal ですね.たとえば 2050年半減 というのはこれに当たります.いままで,発展途上国関係は なかなか動いてこなかったのですが,すこしずつ動いてきています.

Unite.jpg

歴史的には,気候変動枠組条約(1992年),京都議定書(1997年),ボン合意/マラケシュアコード(2001年) と,きわめてタフな交渉がありましたが,それらはきちんと実りをあげてきました.わたしは何度も感動的な場に立ち会ったものです.いろいろあっても,結局は「進めていかなければならない」という気持ちは共有されていると思います.今回も,そうなってもらいたいものですね.

松尾 直樹

P.S. なお,セミプロ以上の人に向けて会議の参加報告+分析を,Climate Experts のWeb に載せておきます.ご興味のある方はご覧ください(緑色がわたしのコメントです).ダウンロードした方は,よろしかったら わたし までご連絡いただけると幸いです.

 


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POZNAN会議の状況 1 [地球温暖化問題の国際交渉]

 

ごぶさたしていてすみません.前回の重慶のバイオガス・マイクロダイジェスターのプロジェクトは,無事に農業委員会とMOUを結んで,いま,CDM化のためのドキュメントがほぼできあがったところです.

さて,わたしは,今週から二週間の会期で開催されている COP 14 (& COP/MOP 4) に参加しています.来年のコペンハーゲン会議で大きなことが決まることになっているのですが,どこまで課題をつぶしておけるか?が今回のポイントでしょう.

わたしは,この手の国際交渉は,INC 10 という COP 1 (Berlin, 2005) の準備会合から参加してきており,日本では最古参の一人となっています.今回,PEARメンバーは,3人参加しています.PEARの特徴は,各種温暖化の専門家が集まっているというところで,また機会があったら紹介しますが,IPCC の ノーベル平和賞を記念した感謝状も3人がもらっています.

さて,2013年以降の先進国の数値目標や,途上国を含んだ新しい取り組みなど,国際交渉の話題も,機会がありましたら分析を交えながらお知らせいたしますが,われわれのかかわっているCDMに関して少し.

DOEの資格suspensionなどがビジネスの世界では大きな話題ですが,もうすこし環境の側面から,プログラムCDM (PoA) への期待がますます高まっているのを感じました.われわれの重慶でのバイオガス・マイクロダイジェスターも,プログラムCDMという新しいアプローチを活用するものです.新しいが故に,制度的にまだ不透明なところが残っており,そのあたりが関係者の大きな関心でした.

ただ,複数の方法論の適用に関する点など,課題はかなり整理・認識されており,次回の2月のCDM理事会において,そのあたりはクリアになりそうな様子です.

われわれのプロジェクトに関しても,いろんな人の関心を集めていました.プログラムCDMは,まだパイロット的なものしか動こうとしていないのですが,きちんと民間セクターの事業として動いてくる好例になると思っています.

会議の模様は,

http://unfccc.int/meetings/cop_14/items/4481.php

http://www.iisd.ca/climate/cop14/

あたりに出ていますので,ご関心のあるかたはご覧ください.

なお,下の写真は,環境NGOの発表する Fossil of the Day という不名誉な賞ですが,なんと昨日は日本がワンツーフィニッシュでした.いやはや...

photo.jpeg

松尾 直樹

 


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